食事の後 ノブさんがお風呂に入ってる間に
美幸さんと二人で お母さんからもらったお客様用のお布団を敷いた。
お布団は新品で シーツもピッチリ糊付けされてる。
まるで 修学旅行のときみたいに 何だかうきうきして.......
お布団の上で 美幸さんは何を思ったのか 私の髪を編み込んでくれた。


    Crystal eyes        3



「どう?たまにはこんなアレンジしてみたら?折角長いんだからさ 」
「すごーい。めちゃ可愛い。美幸さんってば器用ですね 」
「そう?うちの娘なんか もう触らせてもくれないからさ 」
「私 手先不器用なんで いっつもあげてるか結んでるかで.......
こんなの出来ないです。どうしよう 今日 髪洗うのやめよっかな 」
「あはは 明日の朝 また編んであげるよ。それに寝たらどうせぐちゃぐちゃだよ 」
「あ.....そっかぁ。じゃ明日 約束ですよ 」
「はいはい。.....ていうかいつの間にか敬語に戻ってるし 」
「あ あれ?.....」


大声で笑う美幸さんにつられて 大きな口開けて笑ってると
お風呂から上がってきたノブさんが髪の毛を拭きながらやってきて


「.....お?似合うじゃん 」
「へへ 美幸さんに編んでもらったの 」


よかったなって目を細めて笑ったノブさんは
冷蔵庫から缶ビールを出して 美幸さんに渡した。

「俺も 一杯だけ付き合うわ。」
「あ.....じゃグラス持ってくる。その間 お風呂に入ってきます 」


兄妹二人で ビールを注ぎやいこしてる姿を確認してから
お風呂に入ったんだけど.....
やっぱりおかしいみたい。アレ.....。
いつもならもう少し多いはずなのに 今回は ほとんど 無いに等しい。
だけど 以前にも似たようなことはあった。

......ピル飲んでたしなぁ......

飲みやめてからもう随分経つから副作用だとは考えにくい。
だとしたら きっとよく本で読む不正出血の一種だろう。

然程 気にとめることもなく.......
それよりも 美幸さん ほんとに何もないんだろうか......
せっかく編んでもらった髪を解きながら そんなことを考えてた。





「あれ......ノブさんは?」
「もう寝るって言って寝室に行ったよ。香織さん来たら呼んでって 」
「そっかぁ。きっと疲れたよね。今日は仕事も途中で帰らせちゃったから 」
「早く行ってあげて。私が叱られるよ 」


追いやるように手でさっさと行けと促されて寝室に行った。


「ノブさん なぁに?」
「そこ....閉めて こっち来いよ 」

変な想像してもらっても困るので ドアは開けたままにしといたのに.....
ドアをこっそり閉めてから ベッドの上に乗っかった。
そしたらノブさんは いきなりキスをしてきて.......

「....ん....駄目。」
「分かってる........これだけ 」
「今日は ほんとにごめんね。ゆっくり寝てね 」
「久しぶりに一人で寝るから 眠れるかどうか 」
「そんなこと言わないの。おやすみなさい 」

もう一度 今度は私から軽くキスをして.....
じゃあねって ドアを開けたときにノブさんは思い出したように

「そういえば 那美から電話あったぞ。バタバタしてて忘れてた 」
「え?那美さん?」
「心配してたぞ。ちゃんと家に辿り着いたかって 」

うっかりしてた。
帰ってきてからすぐにかけるべきだった。
時計を見ると 電話をかけるにはもう十分に遅い時間だった。

「どうしよう もう寝てるかな。」
「そうだなぁ 一応 無事に帰ってきたことは伝えてあるから明日でもいいかもな 」
「だよね。うん そうする 」


明日の朝 吉永さんが出掛けたぐらいの時間にかければいいやと思って
美幸さんのところに行って ふかふかのお布団にダイブした。


「お兄ちゃん 寂しくって眠れなかったりして。ふふ」
「////// 嫌だなぁ。美幸さんってば。そんな事ないですって。」
「香織さんは? もう飲まないの?」
「はい。今日はもういいです。あ 美幸さん飲むなら付き合いましょうか?」
「ううん。私も今日はやめとく。酔ったら変なこと言いそうだし 」
「あは 是非その 変なこと っていうの聞きたいです 」
「幸せな新婚さんは聞かない方がいいよ。......さ もう寝よっか 」


何か引っかかるものがあったけど 無理に聞き出すことはよくないし
とりあえず 灯りを消して 二人ともお布団に潜り込んだ。

月の灯りだけが 部屋の中に映って.......

何から切り出せばいいんだろうって 布団の中で考えた。
美幸さんのキャラをまだ熟知してないだけに その言葉が見つからない。
ただ 時計のカチカチと言う音と 時々外を通る車が過ぎ去る音だけが聞こえてた。

その静寂を最初に破ったのは 美幸さんの方だった。


「.....香織さん もう寝ちゃった?」
「いいえ まだです 」
「もし眠くないんだったら 少し話してもいい?」
「...実は私.....さっき寝すぎたみたいで 眠れないんですよぉ 」
「あはは そっかぁ 」
「ちょっと昼寝が長すぎました。はは」

ノブさんに聞こえるといけないので 二人とも無意識に小さな声で.....

「......香織さんてさ お兄ちゃんとはどうやって知り合ったの?」
「え?.....えっとぉ....」

まさかノブさんとの馴れ初めを聞かれるとは思ってなくて
力いっぱい慌てた私は 言葉を探すだけでいっぱいいっぱいで

私とノブさんの繋がりを作ったのは 他でもない......

「香織さん?......ちょっと そんなに考えなくてもいいんだよ。
きっと 二人の秘め事なんだろうし。言いたくないなら......」
「あ いえ......そういうんじゃないんです。ただ 色々ありすぎて.......」

言いたくない訳じゃない。
だけど きっと言わないほうがいいに決まってる。
ノブさんの妹さんだからこそ 話すことができなかった。

吉永さんを愛したこと.......後悔なんかしてない。

あの時の私がいたからこそ こうして今 ノブさんの傍にいられるんだから......
でも 美幸さんにそれを分かってもらえるとは思えない。
そんな..... 人に言えないような後ろめたい事を
自分は 何年もの間 平気でやってたんだと思うと
彼女に何も話すことができないことが ちょっとだけ辛かった。


「そっか。色々か.....みんなそうだよね。色々あるよ 」
「あの.....美幸さんはご主人とは?」
「こっちにね よく出張で来てたの。取引先の人だったんだけどね。
いっつも うちのお父さんに頭下げてさ。こめつきバッタみたいだねって。
あんまり ぺこぺこしてるから そう言ってやったんだぁ 」
「こめつき.....バッタ.....ですか」
「そしたら 怒るどころか大声で笑い出してね.....面白い男だよ 」
「お式の時に会いましたけど 優しそうな方ですよね 」
「まぁね でも あまり男前じゃないんだけどね 」
「そ.....そんなことないですよ。それに人間は外見じゃないですよ!中身です 」
「ぷっ.....香織さん フォローになってないから 」
「あ.....あれ?あの.....ごめんなさい 」
「そうやって謝られるのも複雑だけどね。実際 彼はほんとに優しいからさ。
私が またこっちに行くって言っても文句ひとつ言わないんだもん。
子供もさ おばあちゃんに懐いてるから お姑さんからも いってらっしゃいって言われちゃって。
本当に...... 優しい旦那とその家族って感じだよね 」

お馬鹿な発言ばかりな私。美幸さんが心の広い人でよかったよぉ。

「それに比べてうちのお兄ちゃん 結構かっこいいでしょ?
私の友達にも 何人かファンいたんだよ 」
「うそっ......そうなんですか?」

確かに初対面の時には ノブさんのこと 素敵な人だなって.......
だけどそのあとすぐに 無口な彼を 無愛想な人だなって思ったんだっけ。

「だけど 本人があんな風でしょ。あまり恋愛とか興味なかったみたいだし。
基本的に 面倒くさいの嫌がるタイプだね。あれは 」

それなのに こんな事情ありの面倒な女 お嫁さんにしちゃったのね。
.......でも ノブさんに私のこと好きになってもらえてよかった。

「じゃあ私も..... 美幸さんと同じで 優しい旦那様とその家族に囲まれてますね。
一人っ子の私にも 優しい年上の妹ができた訳ですし。ノブさんに感謝です 」

「私は....どうかな。いい妹じゃないかもしれない 」
「........え?」



「香織さん 私ね.....明日......昔の男に会うの 」





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