ベッドから起き上がって
そっと声のする方を見てみると
玄関で 菜箸を持ったまま
仁王立ちになってるノブさんと......
「あれ....美幸さん?なんで?帰ったんじゃ......」
「やっほー。またまた
帰ってきちゃいました
」
「お.....かえりな....さい?」
「香織はいいから
もう少し横になってろ
」
「もう大丈夫だよ。ゆっくり寝させてもらったから。
それより.....どうしたんですか?美幸さん
」
ノブさんは私のおでこに手を当てて
熱はないなって.....
美幸さんは その隙に?玄関からリビングへ移動した。
「相変わらず
仲がよろしいことで
」
「お前なぁ なんでうちに来るんだよ。わっかんねぇなぁ
」
「煩いなぁ まったく。ねぇ 香織さん お願い!
今日だけここに泊めてくんないかなぁ。だめ?」
「へ?.....あの.....いいで....すけど
」
「やったぁー。優しいお姉さんがいて良かったよん 」
何が何だかわからず
正直 起き抜けで頭 回ってなかったし
無下に断るのもおかしいから ついOKしたけど
ノブさんの頭からは
怪しい湯気が立ち上ってる気が......
「だめだ。お前
いますぐ帰れ
」
「なんでよ。いいでしょ 別に。二人の邪魔したりしないもんね
」
「そういう事じゃないだろ。なんで実家じゃなくって
ここなんだ。
それに
向こうに帰ったばっかりでもう里帰りか?いい加減に......」
「あー もう うるさい。ちょっとは私の好きにさせてよね 」
美幸さん......何かあったんだ きっと。
「ノブさん いいじゃない。今日だけだって言ってるんだし。
それに私
美幸さんとまたお喋りしたいなって思ってたの。だからさ ね?」
「.....香織 お前 体調悪いんだろ。無理するなって 」
「もう全然
平気だよ。あ そうだ。美幸さん あのね。
今日は ノブさんが晩御飯作ってくれてるんですよ。一緒に食べましょ?」
ノブさんは
大きな溜息をついた後 黙って後ろを向いて
「......今日だけだからな 」
そう一言だけ
つぶやいてキッチンに行ってしまった。
「ありがと 香織さん。助かったぁ 」
「ふふ 良かったですね 」
「でも
ほんとごめんね。具合悪いって知らなくってさ
」
「違うんですよぉ。これ
実はただの生理痛なんです。ノブさん大袈裟だから
」
「なんだぁ。それなら安心しちゃった
」
「.......で? 一体何があったんですか?」
とりあえず話を聞いてあげることしかできないと思ったんだけど
特に理由はなくって 明日こっちの友達と遊ぶ約束をしたんだと言うだけ。
「実家に行ったら
すぐ向こうに帰りなさい!ってお母さん激怒でさ。
明日の夜はちゃんと帰るから
今日だけ......お世話になります
」
「いいんですけど.....おかあさん心配してるんじゃないでしょうか
」
「もう帰ったとでも思ってるんじゃない?大丈夫だよ。
それより
お風呂貸してもらってもいいかな
」
「はい。あ まだお湯が入ってないかも.....
」
「いい シャワーだけで。暑いし 汗かいちゃって
」
「それなら
どうぞ使ってください
」
美幸さんにタオルだけ手渡して キッチンにいるノブさんの所に行った。
ノブさんは ちょうどタバコに火をつけようとしてるところだった。
「こら
ノブさん。ここでタバコは駄目でしょ。めっ
」
「おっと 見つかったか。ごめん....で 何か聞き出せたか?」
「ううん。明日
友達と遊ぶ約束しただけだって。
でも きっと何かあったんだろうと思うんだけど.......」
「やっぱ
そう思うか?」
「何となくだけどね。それより お母さんに....」
「今さっき
連絡だけはしといた。心配してるといけないからな
」
「さっすが
ノブさんだね......で?晩御飯は何かな?」
てっきりお弁当でも買ってくると思ってたんだけど
ガス台にはちゃんと
フライパンとお鍋が乗っかってる。
一体 何を創作したんだろうと思い そっと
蓋を開けてみたら
「あの......ノブさん これ......」
「どうだ?見た目はともかく味は保障するぞ
」
すごい。驚いた。見事なチキンライスが出来上がってる。
横には
ボールにちゃんと卵が割ってあって
どうやら今夜は「オムライス」らしい。
だけどお鍋の蓋を開けると なぜか空っぽで......
「今から
うまい味噌汁を作る予定だったのに 丁度あいつが来ちゃったから
」
「そっかぁ。じゃ それは私が作るから。ノブさんは座っててね
」
「いや
今日は俺が作るって言ったんだから。最後まで作る。
それより 香織 本当にもういいのか?気分は?」
「大丈夫だって......でも せっかくだからノブさんの料理いただきますか
」
「よし。待ってろよ。でも
その前に.....」
ノブさんはいきなり私の体を引き寄せて 耳元で囁いた。
「今日は もう何もできないだろうから......」
私はノブさんの首に腕を回して 背伸びしながらキスをした。
「......ケチャップ味だ。」
「味見
いっぱいしたからな」
二人で
小さな声でこっそりと笑った。
「香織さーん ドライヤー貸してー 」
「あ はーい.....ノブさん
離して。呼んでるから」
「あいつは ほんっとに......悪いな
香織」
「ノブさんの妹さんは私の妹でもあるんだよ。そうでしょ?」
「......ああ サンキュ
」
もう一度だけケチャップ味のキスをしてから バスルームに急いだ。
なぜか パジャマまで持参していた美幸さんは
お化粧も落として すっかり リラックスしてた。
彼女は私と同じで
背はあまり高くはないけど
私と違って 足が長くてスタイルもいい方だと思う。
ボーイッシュな
茶髪のショートカットをきちんと乾かしてから
ソファーに座ってTVを見ながら どうやらくつろぎモードに入ったようだ。
「香織さん 具合いいなら
ご飯できるまで 二人で....どう?」
「わぁ いいですよ。付き合います
」
こんな光景
絶対にお義母さんにだけは見せられない。
ノブさんに食事の支度をさせておきながら 女二人でビールなんて
それこそ
私が追い出されちゃうよね。
「あの.....聞いてもいいですか?」
「いいですけどぉ 敬語はやめて下さいませんかぁ?
なんか
こう.......
こそばゆくってどうも駄目だわ 」
「あ すいません。......じゃなくって
ごめん....?]
「そうそう。いい感じだよ。おねえちゃん
」
「おねえちゃんは......ちょっと
」
「そっか。香織さんって一人っ子だもんね。よく親が出してくれたね
」
「うちはそんな旧家じゃないし 父も次男坊だからあまり関係ないみたいで 」
うちの親は 私が小さいときから ずっと言ってた。
お前は自由に
好きなように生きていきなさいって。
でも考えて見れば そういう訳にもいかないのかもしれない。
今はまだ 二人とも元気だからいいけど.......
「香織のおやっさん達が動けなくなったら 近くに住んでもらえばいい
」
声のする方を見たら
ノブさんがで出来立てのオムライスをテーブルに並べてた。
立ち上がって 手伝うよって言ったら 優しく笑ってくれた。
「そんな心配しなくても
ちゃんと考えてるから。な?」
「.......うん ありがと
」
ノブさんには
私の考えてることがいつも分かっちゃう。
なんでだろうな。やっぱり私が単純なのかなぁ.....
「しっかし
お兄ちゃん 変わったよね。香織さんと結婚してからさ
」
「そんなことない。お前は余計なこと言わなくていいから さっさと食え。
一人前
増えたから またわざわざ作ったんだぞ。感謝しろよ
」
「へいへい。じゃいただきますか?」
ビールのコップを片手に持ったまま
美幸さんはテーブルについた。
ノブさんオムライスは 多少 卵の形は悪いけど
でも味は最高だった。
「美味しい!ノブさんって料理できるんだねぇ
」
「ほんとか?旨いか?」
どれどれと 大きな口を開けて
私のお皿の前に顔を出したものだから
反射的に
ノブさんの口の中にオムライスを入れてあげてた。
「あーん」
........まずい。二人じゃなかった。
それに気づいた私たちは
ちらりと彼女を見たけど
彼女は のぶさんオムライスを これマジで美味しいねっていいながら
パクパクと 口に運んでた。時々
味噌汁をすすりながら......
「オムライスはまぁ 誰にでも出来るけど
この味噌汁はたいしたもんだわ。
私が教えてほしいくらいだよ。お兄ちゃん これ何で出汁とったの?」
「いつも
香織が入れてるの見てたから あれ いりこだよな?」
「うん......っていうかほんと美味しい。私より上手かも......
」
「どれくらい入れたらいいのかわかんなかったからなぁ。大量に入れた。
でも やっぱり味噌汁は
香織が作った方が断然旨いな
」
三人で 楽しくお喋りしながら食事した。
いつもは二人で食べてるから
たまにはこんなのもいいなって。
「ところでさ
私はソファーで寝るから。お布団は用意しないでね。
.....っていうかいらない。風邪ひくような季節でもないしさ。」
きっと私たちの邪魔をしないようにと気を遣ってるんだろう。
ノブさんの顔をチラッと見た後 アイコンタクトで無言の了解を得てから
「じゃあ
.....今日は私もここに寝ます。せっかくだからお布団も敷いちゃいましょ。
うちのお母さんが持たせてくれた
ふかふかの客布団があるの。いいでしょ?」
「そんなの駄目だよ。お兄ちゃんに怒られちゃうじゃん。」
「......いいぞ。そうしろ
」
「へ?」
「構わないから
おねえさんと一緒に寝なさいって言ったんだ
」
「ちょっと 私は邪魔しにきたんじゃないんだってば.....」
「こんな事
そうそうないですから ね?もっと色々
話したいし 」
この時は たぶん
嫁姑問題とかだろうと思ってた。
話を聞いてあげるだけでもすっきりするんじゃないかって。
でも.......
美幸さんの問題は
そんな簡単なものではなかった。
menu
next back