その日は少し肌寒くて一枚多めに羽織るくらいだった。
秋は短い。もうすぐ寒い季節になる。
季節の中で一番秋が好き。
でも大好きな秋はあっという間にいってしまう。


そして今日私は......


       カフェテラス  22


金曜日の昼間に吉永さんが来た時 誰も見てないのを見計らって
今日の夜会いたいと私は初めて自分の方から彼を誘った。
無理ならいいよって言ったら お前から誘うなんて珍しいなって笑ってた。
そしてその日の帰りにいつものところで待ち合わせをした。
それからママさんに急用ができたからと 翌日の休みを貰った。


吉永さんは初めて私を車に乗せた時から 
私を迎えにくるときは裏の駐車場の死角で車を止めて座席を倒して私を待ってる。
いつも 無駄だよって 車見られたら一緒じゃんって私が言うのに

「別に.....隠れてるつもりもないし 」

そんな嘘ばっかりついて そんな嘘ばっかりつかせてしまって..........

「お待たせ。いっぱい待った?」
「いや。たった今。」
「そっか。ねぇ お腹すいた。」
「よし。じゃ行きますか。何食べたい?」
「んとねー。じゃ ハンバーグ 」
「了解。あそこでいいか?」
「うん。いいよ。」

車が走り出した。

今日は最後まで楽しく過ごしたい.....


いつものお店でハンバーグを食べた。
私はトマトの乗ったハンバーグを注文して 彼はやっぱりオムライス付きのハンバーグ。

「たまには違うの食べようよ。」
「いいじゃん。これが好きなの。」
「いいけど食べ過ぎ注意してよ。成人病とか恐いからさ。」
「ってかそんなおじさん扱いかよ。」
「でもたくさん美味しそうに食べる吉永さんが大好きなんだけどさ。」
「どっちなんでしょう?香織ちゃんの言うとおりにしたいのですが?」
「ふふ じゃ今日はたっぷり食べて下さい。で明日からは.....」

明日からは.....

「...............やっぱりいいや。元気な吉永さんが好きだから。」
「でも太ってるのは嫌だろが。ま 俺は太らない体質だけど。あ この後 飲みに行くぞ。」

そういいながら美味しそうにぱくついてる吉永さん。
どんなに体型が崩れてもきっと大好きだよ......




「こんばんは。ママさん」
「あら?いらっしゃいませ。相変わらず仲がいいね。ふふ」
「ママ ボトル一本入れて。新しいの。」
「確かまだ前の残ってたと思うけど.....」
「こいつの名前で入れといて。」
「え?」
「ノブから聞いた。誕生日何もあげてないし 今更何かやるってのもおかしいからさ。
友達と来て飲んでもいいように入れとけ。なつみちゃんと飲んだりするんだろ?ここにも来たらいいじゃん。ね ママ。」
「大歓迎よ。うちは女の子のお客さんも多いから たまには友達と来たら?」
「うん.....ありがとう。吉永さん 嬉しい」
「ノブが人の事 鬼みたいにいいやがるしよー。ひめのせいだぞ 」
「あはは でも戻ってきて良かったね。」
「あの猫 脱走癖ついてるみたいでさ。あれからしょっちゅういなくなる。」
「手が掛かる子だねー。人間だったら説教もできるけどね 」
「だから猫は嫌いだって言ったのによぉ」

それでもいなくなったら探してあげてるんだよね。
そんな優しい吉永さんが大好きだよ.....

「悪かったな。誕生日。」
「いいよ そんなの。ちなみに吉永さんの誕生日っていつなの?」
「俺か?聞きたいか?」
「教えたくないのか?」
「あはは 俺は1月3日だ。めでたい奴だろ。」

そっか.....お正月なんだ。

「確かにめでたいねー。まんま吉永さんだねー。」

ママさんも私もみんなで笑った。

途中 吉永さんは電話をするために席を立った。



「香織ちゃん。今日はやけに明るい気がするけど?何かあった?」

ママさんの言葉に私は苦笑いして言った。

「吉永さんがああやって 嘘つかなくてもいいようにしようと思ってて。」

ママさんは少し驚いたようで.....

「........そう。もう決めたの?」
「.....はい。正直倒れそうですけど.....」

私はそう言いながら精一杯の笑顔で笑って見せた。

「倒れる前にここに来なさいね。一人でも歓迎するから。」

ありがたい言葉に泣きそうになった。
でも.....まだ泣かない。泣いちゃだめ........。



帰り際 ママさんは私の手を握って じゃあねって言った。
吉永さんは俺のに触るなって言って笑ってた。


「楽しかったね。結構飲んじゃったよ。」
「香織ちゃん ほんと酒強いよな。俺も大概だけどさ。」
「まあね。でも今はコーヒーが飲みたいって感じかな。」

車に乗って少し走らせて自動販売機で缶コーヒーを買ってもらった。

「やっぱ不味いな。コーヒーはお前の淹れたのが一番旨いな。」

いつも私の淹れたコーヒーが一番だと言ってくれる吉永さん。
そんなに変わらないよ。誰が淹れたって......。
でもいつも美味しいって言ってもらいたくて心を込めて淹れてたんだよ。

「愛情プラスだからじゃないの?」
「それはまた違う時にたっぷり味わってますから。」
「ほんっと スケベだよね。」
「そういう風にとる君もかなりのスケベなのでは?」

吉永さんとのこんなくだらない会話が私は本当に好きだった。

「私はそんなスケベじゃありません。」
「あれ?顔 赤いよ。」
もうって言いながら彼を叩く私の腕を優しくとって自分の背中に回して
彼の胸の中で心臓の音がとくとく聞こえた。

「...........どっか行くか?」

最後にもう一度抱いて欲しいと思ってた。

でも......

「.....夜の海 見たいな。」
「ん。分かった。でも寒くないか?」
「大丈夫。カーディガン持ってきたから。」

それからあの日の夜の海に行った。あれからも何度もここに来てる。
ここで海見ながらお喋りしてキスだけして朝まで手を繋いで眠ったり
節約だよって私が作ったお弁当を二人でつついて食べたり......

今日の海は少し荒れてる。雨が今にも降り出しそうで夜の闇が更に深い。

「寒いから車に乗れ。風邪ひくぞ。」
「うん。」

いつまでも外で海を見ている私に吉永さんは言った。

このまま時間が止まればいいのに。そしたらずっとこのままでいられるのに。


「......吉永さん キスして。」
「香織ちゃん今日はどうしたのかな?らしくないねー」

そんな吉永さんの煩い口を 今日は私が塞いであげた。
でもやっぱり主導権は彼にあってあっという間に私は彼のキスに呑み込まれてしまう。
そのまま彼の胸の中に抱き込まれた。

「......吉永さんのキス 大好き。」

彼の心臓の音を聞いてると本当に幸せ.....

「香織ちゃん.....?」

「私を呼ぶその声も 私を抱くこの手も.....全部好き。」

「.......どうした?」




「吉永さん 私達........別れよ。」




 

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