「ぎゃっ」
「え....どうしたの?えみちゃん?」


   Crystal eyes     7



裏に入っていったえみちゃんの悲鳴にも似た声。
それなのにまきちゃんは 微動だにせず 黙って手酌でビールを飲んでる。

「ピザよりも早かったってか?」

冷静にそう言うまきちゃんは 私の方を向いて言った。

「さあ 今日のスポンサーがいらしたみたいだから もうちょっといいお酒に切り替えますか?」
「.......スポンサーって.......」


裏口からやって来るスポンサーって......



「もうっ ボスさん 吃驚するでしょー」
「ごめん こっちから入れってママが言ったもんだから。」


.......お店の奥から 私の大好きな声がする。


「まきちゃん.......」
「それにしても早っ!あんたたちがピザぐらいで悩むからぁ。もう」
「だってさ 私 エビ嫌いなんだもん。」
「はいはい。あれ.....何してんの?ゆかちゃん 迎えが来たよ。
それから言っとくけど ここでのラブシーンは困るからね。」

なかなか立てずにいると 奥からノブさんが出てきて 私の隣に座った。

「今さ えみちゃんから仲直りの仕方 聞いたんだけどさ。残念ながら 今日は無理なんだよなぁ。」
「......ノブさん あの 私......」
「......カッコ悪いな 俺......やきもち.....」


ばつが悪そうに苦笑いするノブさんを見てたら
その顔がだんだん滲んで見えてきて......


「おい 泣くなって......こんな所で泣いたらまたママの雷が落ちるぞ。」
「ごめ.....ん.....なさ.....い....ノブさ.....ん」


泣くなって言われても 涙がいっぱいいっぱい溢れてくる。
こんなことぐらいで泣いてたら 恵理子さんが言ういい夫婦になれない。


「ところで 参考までに聞くんだけど......というか
聞くのもちょっと不安なんだけどさ えみ直伝の仲直り方って?」

まきちゃんが 神妙な顔でノブさんに聞いた。
私も ちょっぴり興味がある。お陰で涙が止まった。
そういえばノブさんが さっきそれは無理なんだって......


「エッチしたら 仲直りできるって言ったんだよ。そうだよね?まきちゃん」
「はぁっー?ちょっと あんた そんなこと言ったの?」
「だって まきちゃんがいったんだよ。岩ちゃんはそれで機嫌が直るってさ。」
「だからぁ ///// あんたが岩ちゃんって呼んじゃ駄目なの!オーナーって言いなさい。」
「えー だって 岩ちゃんがいいよって言ったもん。」

真っ赤な顔をして怒ってるまきちゃんに 恐れることもないえみちゃん。
この二人は きっとこれでうまくいってるんだろう。
だけど いつものことながら 見てるだけで面白い光景だわ.......

「でもさ それってほんとだと思うよ? ね なつみさん」

何で私に同意を求めるのさって 恵理子さんは呆れてるし.....
ノブさんは そんな女だらけの会話が可笑しいらしく けらけら笑ってる。

「でも ボスさん 何で今はだめなの?」

それまで笑ってたノブさんは 一気に引き攣った顔に変わって無言で私を見た。

「そんなこと 聞かなくてもわかるでしょ。えみは黙ってな 」
「ひどーい。ね 教えてぇ。ゆかちゃん」

さすがに わざわざ解説するほどのことでもないと思ったから
とりあえず えみちゃんのことはスルーってことで......

......っていうか.....

「.....それがさ アレなんだけど もう終わっちゃったみたい 」
「あー アレかぁ。じゃあ できるね。よかったね ボスさん 」
「あの ////// えみちゃん? そういう意味じゃなくてね......」

あっけらかんと言うえみちゃんに まきちゃんは溜息の連続だ。
さすがの私も ここまでさらっと言われると もう恥ずかしさもなくなる。

だけど 困ったことに ノブさんには周りが見えてないらしく......


「昨日始まって もう終わったのか?早すぎだろ。
やっぱり 体調悪いんじゃないのか?大丈夫なのか?」
「別に ただの不正出血でしょ。良くあることだよ。心配しないで。
それより ほら.......みんなの 前だからさ。」


「ちょっと.....香織ちゃん?一日だけで終わったって事?」
「あ.....うん。だけど ほら 色々忙しかったからさ。
前にもこんなことあったんだよね。元々不順だし。大丈夫だから 」
「それって......もしかして......」

恵理子さんは 私の顔を見てから その視線を下に向けて言った。
自然とその目の動きに合わせて自分の下半身を見てしまった。

「私 最初の時 そうだったんだよね。
始まったって思ったら 二日くらいで無くなっちゃって。
もしかしたらって思って 自分で薬局で買ってきて調べたんだけど。
そしたらさ......もしかして 香織ちゃんもそうなんじゃない?」
「何?話が全然 みえないんだけど。なつみさん もっとわかりやすく.....」
「だからぁ もしかして できてるかもって言ったの 」


できてるって.......まさか.....


「妊娠生理って聞いたことない?」
「......聞いたことはあるけど こんな感じなのかどうかってのは....」

ノブさんの方を見ると やっぱり彼も私の下半身を凝視してて.....

どこ見てんのよ......恥ずかしいよ......

「いや.....でも 違う.....と思うよ。だってさ......」
「香織 帰るぞ。ママ 今日の埋め合わせは 近いうちに必ずってことで 」
「OK ボス その時は倍返しってことで 」
「え ちょっと....ノブさん.....」

半ば強制送還させられそうな私に 三人は笑顔で手を振った。

「すぐに知らせなさいよ。どっちにしてもさ。」
「香織ちゃん 最初は分かりにくいから ちゃんと受診してね 」
「ゆかちゃーん また来てね。ボスさんも バイバイ!」


そんなみんなの言葉に見送られながら 駐車場まで引っ張られて
気がついたら 車の助手席に座らせられてた。
ご丁寧に ノブさんがシートベルトまで止めてくれて.....


「それぐらい 自分でできるから.....」
「とりあえず 仲直りは後にしてだな.....まずは 薬局だな 」
「ちょっと.....ノブさん たぶん違うからさ....」


助手席の私の頭をいつもどおりに優しく撫ぜてから
ノブさんは ゆっくりと車を発進させた。




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