ノブさんとの結婚生活が始まった。
....とはいえ ずっと一緒に住んでいたわけだから
何も変わったことは特にないんだけど......

でも...... やっぱり 同じ指輪をつけてるってだけで
彼の奥さんになったんだなって実感はあるかな。
ノブさんは相変わらず優しいし 毎日が本当に幸せで.........  


      Crystal eyes         1


そんな私に 変化が起きた。
もしかして.......って思ったけど ノブさんには言えなかった。
何となく 言い出せなくって......

こんな風に 変な気をまわすのはよくないとわかってる。
でも やっぱり どこかで気にしてしまう。
きっと喜んでくれるに決まってる。
それなのに なぜか言えなくて......

それに まだ決定って訳じゃないし......
もう少しだけ待ってみよう。
元々 不順な方だし 確かに 結婚してからはその......
身に覚えは.....ありすぎるぐらいあるけど/////
まさか そんなにすぐにってことはないだろうし。

そんなことを思いながらも 何日も体がだるくて......
遅れることは今までもあったけど 今回はもしかしたらって
そう思ってた矢先 何となくそれらしきを感じて
朝 起きてトイレに駆け込んだら .......


やっぱり遅れてるだけだったかぁー。

.......そっかぁ......



ちょっとだけ 涙が出ちゃった。
安心したのと 残念だったのと 二つの気持ちが半分こで 複雑って感じ。
でも きっとこれでよかったんだ。
あの日 お義母さんとも話したけど こういうのは授かりものだし
それに ノブさんのこと考えると....まだ少し早いかなって気がしてた。

結婚するまでは ノブさんはずっと避妊してくれてた。
だから もしかしてまだ あの事を気にしてるのかなって思ってた。
でも 式の後からは 暗黙の了解みたいな感じで......
だけど いわゆる「家庭計画」ってのは話したこともなかった。


「......香織?」
「え?」
「コーヒー いただけますか?」
「あ........うん。すぐ淹れたげるね 」
「どうかしたのか? 元気印 消えてるぞ 」
「え?そぉんな事ないよー......ていうか.....女の子になっちゃった 」
「なんだ それ 」
「つまり.....アレだよ。アレ 」
「.......あー そっか なるほど。きつかったら寝てていいからな 」
「うん ありがと。でも大丈夫。あ それより今日出掛けてきていい?」
「いいけど どこ行くんだ?また美容院か?」
「またぁ そんな意地悪言わないの!旅行のお土産 まだ渡せてない人がいてさ 」
「へぇ.....誰?あの.....まこちゃん....だっけ?」
「まこちゃんには こないだ持っていった。今日は那美さんにね。
まだ渡してなくって.......ランチするって約束しちゃったし 」
「それなら車で一緒に迎えに行こうか?」
「ううん 妊婦さんって太っちゃいけないんだって。動いた方がいいらしいよ 」
「こないだ達也に会ったけど 那美がちっともじっとしてないってこぼしてたぞ 」
「..........そっか。でも 早く帰るようにするからさ 」
「.....暑いから車で行って来いよ。たまにはゆっくりしてこい 」



素敵な旦那様の 優しいお言葉に甘えて ちょっと重い体を動かして
用意していたお土産を持って 那美さんに会うために家を出た。
旅行のお土産は 腐らないものがいいだろうって二人で考えて
焼き物のお店に行って みんなにコーヒーカップを買った。

まきちゃんには 真っ黒で渋めのデザイン
えみちゃんには 花柄の可愛い感じで......
恵理子さんと 那美さんには ご夫婦で使ってもらえるようにと
ペアのコーヒーカップをそれぞれ選んで買ってきた。
みんなには帰ってきてからすぐに会って渡してたんだけど
那美さんとは なかなか会えなくって。

この日はお天気がよくて 外はかなりの暑さ。
車で出掛けたのはいいけど 運転してたら気分が悪くなってしまって......
途中で 車を止めて 自販機でジュースを買って飲んで
約束の時間よりも少し遅れて 待ち合わせの店の駐車場に車を停めた。


このお店はちょっとお洒落な小さいカフェで
雑誌で紹介されてたんだよって那美さんが言うから
せっかくだからランチでも一緒にって事になった。


お店の中を見渡すけど 那美さんの姿が無くって
那美さんは車の運転をしないし きっと電車が遅れてるんだろうなって
とりあえず 空いてる席を探して座った。

可愛いエプロンをつけた女の子がお冷を持ってきてくれたので
連れが来ることを伝えて とりあえず ホットを注文した。
本当はアイスコーヒーにしようかとも思ったんだけど
外の暑さとは反対に 店の中はクーラーが利いててちょっと涼しすぎる。


お店の雰囲気にあわせた素敵なコーヒーカップがやってきて
一口飲んだときに 那美さんが慌てて入ってきた。

「ごめんね。遅くなって 電車遅れてて.....はぁっ 」
「こんにちは。私も今ついた所ですから。それより大事な体なんですから。
走ったりしないでくださいよ。やっぱり迎えに行けば良かったかも 」
「うちまでだと電車のほうが速いから。それに私が誘ったんだし 」

那美さんは 相変わらず綺麗で とても妊婦さんには見えない。
そんなに お腹も目立ってないし.......

「ちょうどお昼だね。何にしょっか。お勧めってのがあるみたいだけど 」
「じゃあ 私はそれにします。初めてだし 」
「オッケー 」

それから ランチが運ばれてきて 二人で軽く評価しながらいただいた。
見た目も可愛らしくって 女の子が好きそうな感じ。
ちょっと量は少なめだけど ワンプレートにいろんなものが乗ってた。
味は まぁ普通かなって事で.......
アフターコーヒーが運ばれてきてから 私は本題に入った。

「あの これ大したものでもないですけど良かったら使ってください。」
「わぁ ありがとう。何だろな 開けてもいい?」
「あ....あの.....那美さん それ割れ物なのであまり揺すらないほうが良いかと?」


中身が何なのか確かめるべく箱を耳のそばに持っていって
カタカタと 揺する那美さんを軽く制止した。
私の言葉を聞いた彼女は そっと包装紙を剥がして箱を開けた。


......良かったぁ。割れてない。


「わぁ 素敵ね。早速 明日から達也にこれでコーヒー飲ませるね。」

実は こんな時が一番困ってしまう。
だって......那美さんと仲良くするってことは
必然的に吉永さんが 話のあちこちに登場してくる訳で.....

確かに 終わったことなんだけど やっぱりこんな時は
どういう風に 返すのがいいのかと悩んでしまう。
ご主人にも気に入っていただけるといいんですが....とか?
でも それはやっぱり不自然だもんね。
かと言って 吉永さんこの色が好きなんですよね......なんて言えないし。
だから 吉永さんの話が出たときは いつもただ笑ってやり過ごす。

でも考えたら 意識してる私が 一番おかしいんだろうけど......

「香織ちゃん 新婚さんはどう?」
「え?......あ はい。順調です 」
「なら そんな顔しないのよ」
「......私 どんな顔してました?」
「複雑ーな顔?」

ふくざつー.....って どんなんだろ。
無意識に自分の顔を触りまくってたら 那美さんに笑われてしまった。

「.....私さ あまりお友達いないから.....香織ちゃんとはいいお友達でいたいのよ。
例えばさ.....お互い旦那に言えない事とかさ。相談に乗ったり乗られたり?
そういう関係になれたら すごく嬉しいな。今までどおりさ。」

那美さんはやっぱり 大人だ。
私なんか 昔のこといつまでも引きずって どこか後ろめたくって
那美さんのことを 友達だと思ってても 確かに他の友人とは違ってた。

「ありがとうございます。そんな風に言って貰えると嬉しいです。
是非 これからも主婦の先輩として頼らせていただきますので よろしく 」
「あまり出来た主婦でもないけど こちらこそよろしくね 」

何だか おかしな話になってきたねって 那美さんは似合わない大声で笑った。
話をしてる最中も ご飯を食べてる時も 時々 お腹に手を当ててる那美さん。
母親って きっと赤ちゃんがお腹に入った時点でもう始まってるんだね。


「赤ちゃん もう 動きますか?」
「うん。最初は驚いたんだけど 何だかね 妙な感触でね。
でね.....達也に触らせたら 気味悪がっちゃって.......ふふ 」
「ひどーい。自分の子なのに 」
「ねー そう思うでしょ?......でもね 夜中 こっそりお腹 撫でてて......
私が 寝たと思ってたみたいだけど 何かぶつぶつ言ってるんだよね 」
「.....ぶつぶつ?」
「どこで聞いて来たのか知らないけど 昔話してるみたいだった。
ある所に〜ってさ。おっかしいでしょ?笑いたいの堪えて狸寝入りしてたんだよぉ 」

ちょっと不気味かも.....あの吉永さんが......

悪いって思いながらも ついぷっと噴き出してしまった。
それを 見て那美さんも笑いが止まらなくなってて......

そうやって吉永さんの話をして笑う那美さんは とても穏やかな顔をしてた。
.......そして私は 思った。
ノブさんも もし赤ちゃんができたら そうするのかなって。

「香織ちゃんは まだ?赤ちゃん。」
「.......残念ながら 今朝......きちゃいました。へへ 」
「あら そうなの?早くできたらいいね 」
「あ はい。でも.....しばらくはいいかなって 」
「そうなの?うちの子と年が近いほうがいいかなって思ったのに 」
「あは じゃ とりあえず......頑張ります 」

一応 主婦である私達二人は
晩御飯の用意もあるのでそろそろ帰ろうかと腰をあげた。
帰りはどうしても送って行きたいからと言って
那美さんを引き止めて 店を出る前にトイレに立った。


おかしいなぁ......
朝 ちゃんと始まったはずなのに.....
変だなって思いながらも あまり深く考えなかったんだけど
トイレを出た所で 急に眩暈を感じて座り込んでしまった。

「ちょっと 香織ちゃん!どした?」
「......平気です。ちょっと立ちくらみがしただけで.....」
「とりあえずもう一回座ってて。秋山君に電話してみるから 」
「大丈夫ですから。もう何ともないですし 」
「でも......」
「本当に。ただちょっと送っていくのは.....那美さんに何かあったらいけないし 」
「そんな事はいいのよ。私も少しは動いたほうがいいんだしさ 」
「はい。すいません 」

それから お水を一杯もらって しばらく休んでから那美さんと別れた。
帰りも気分はすぐれないながらも 何とか運転できたし
さっきのは きっと ちょっとした貧血だったんだろう。

「ただいま。」
「香織 ?お前.....ったく心配したぞ 」
「さては ......那美さんでしょ 」
「電話あってから 迎えに行こうにもどこかわからないし
お前 携帯にも出ないしさ。やっぱりどっか具合が悪いのか?」
「携帯?」

慌ててカバンの中を探ってみて 取り出してみたら
ノブさんからの着信が 見事にずらぁりと並んでた。

「ごめん。運転してたから 聞こえなくって 」
「とにかく 寝てろ 」
「たぶんアレ...遅れてたから それで貧血になってるんだろうと思うよ。
だから 心配ないって。こういう時には逆に動いたほうが楽だったりするしさ。
ちょっと買い物に行ってくるね。 晩御飯の支度しなくっちゃ 」
「だめ 寝てなさい。今日のばんめしは俺が作るから 」

なんだかんだで結局 ベッドの中。
俺が作るって......一体何を作るんだろう。
何が出てくるのか かなり不安なんですけど?
もしかして お弁当でも買ってくるのかな?

どっちにしても 今日はノブさんの気持ちに甘えさせてもらおう。
正直言って 本当は結構 体がきつかった。
晩御飯なんだろうなって楽しみに考えてたら

........いつの間にか眠ってしまってた。


  


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