今回の旅行は 本当にシンプルなもので
特に計画も何も立てずに 行き当たりばったりな感じ。
とりあえずは 予約してるホテルの方向に向かって車を走らせた。
昼はガイドブック片手にどこか観光でもしようかと 二人で話してた。


        僕の夢   3


「香織 着いたら起こすから眠たかったら寝ててもいいぞ 」
「うん でも大丈夫。せっかくだから起きてるもん。
あ お義母さん 着いたらお昼ですよ。何か食べたいものありますか?」
「私は何でもいいわよ。香織さんの食べたいものに.....」
「お袋は 海の物が好きだったよな?確か」
「ええ.....まぁね。お肉よりは好きかな 」
「そうなんですか?実は私もなんです。お肉はあんまり...........」
「じゃ どっか探してみような。旨い魚出すとこさ 」

ノブさんは なんだかんだ言ってお義母さんにとても優しい。
親子なんだから当たり前だけど 少し妬けちゃう。
私にも息子が産まれたら こんな風に優しくしてもらえるのかなぁ。

ガイドブックを開いて 海の幸を出してくれそうな店を探したけど
あまりそういう事に詳しくないから悩んじゃって.....

「どっかに関さばとか 書いてあるとこないか?」

さすが ノブさんだ。さすが私の旦那様だ。

的確なアドバイスの元 そこに載ってたお刺身の写真をお義母さんに見せたら
美味しそうねって言ってくれたから......
とりあえず着いたらその店に行ってみることにした。

そこは地元の漁師さんがその日に釣ってきた魚を出してくれるお店で
関アジや関サバの活造り あとアラの味噌汁とか.....
とっても美味しくて お義母さんも 気に入ってくれたみたいで安心した。


食事が終わってから ガイドブックの中にある観光地をいろいろ回ってみることにした。
ここは地元からも近いせいか あまり観光に来た事はなかったんだけど
こうしていろんなところを回ってると 意外にも 新発見なことが多くて......
灯台下暗しとは きっとこういうこと言うんだなって。
だけど......こんなに楽しいのはきっと
ノブさんと一緒だからなんだろうなって そう思った。


途中で 足湯があったので三人で並んで座った。
人から見たらきっと面白い画になるんだろうなって思ったら笑えた。
そしてやっぱり 温泉たまごは外せないと 力説してしまった私。
でもお義母さんも食べたいって言ったんだもん.....
その後 アイスクリームも買って二人でぺろりといっちゃった。


「よく食うなぁ。どこにそんなに入るんだ?」
「信之は昔から 甘いものあまり食べないものね 」
「そうだよなぁ。だからって酒もあまり飲めないんだよな 」
「香織さんは?お酒は飲めるの?」
「はい......まぁ.....少し...」
「香織 嘘はいけない。正直に答えなさい 」
「あぅっ......実はかなり.....いけます 」
「ふふ そうなんだ。じゃ今度一緒に ね?」

聞けばおかあさんも結構いける口だとか.....
それならば今度 是非と答えた。

おかあさんは 特に焼き物のお店に興味があったらしくて
気がついた時には お土産にってたくさん買い込んでしまってた。
ノブさんは 割れ物なのにってぶつくさ言ってたけど。




「そろそろ ホテルの方に行くか。」

腕時計を確認しながらそう言ったノブさんの言葉にはっとした。
忘れてた。お義母さんの泊まるところ.......

「ノブさん お義母さんの部屋って......」
「大丈夫 俺が昨日のうちに予約入れといたから。
空いてて良かったよ。それよりさ 香織 ちょっと......」

ノブさんは私の耳にいきなり口を寄せて こっそりと耳打ちで
私だけに ある素敵なサプライズを教えてくれた。
お義母さんは そんな私たちを見ない振りしてあっちを向いてた。
その計画を聞いた私は もう吃驚してしまって......



ホテルに着いてロビーに向かっていくと ......



「思ったより早かったな.......」
「......まぁな。例の案件はちゃんとうちが取ったぞ。もう契約書も.....」
「え?.....おとうさん!ちょっと......どうしたの?」
「おぉ どうだった?楽しかったか?」

驚いて目が丸くなってしまってるお義母さん。
またもや ノブさんの素敵な悪戯が成功したってとこかな。

「驚かしてやろうと思ってな。」
「.....ほんっとに 吃驚したわ。それよりお父さん 仕事は?」
「代理に元経理部長を就任させてやった。帰ったら給料くれって言ってたぞ 」
「あの子らしいわね。ふふ」

元経理部長って......美幸さんのこと.....だよね。

「ね ノブさん 美幸さんって おとうさんの会社で働いてたの?」
「あのキャラだからな。外じゃ勤まらないだろうしさ 」

美幸さんには悪いけど 何となく納得してしまった私。

「それより下着とか着替えとか何も分からないから大変で.....
結局 手ぶらで来たんだぞ。温泉だってのに 」
「あら そうなの?じゃ 買いに行かなきゃ。ホテルの中にあるかしらね 」

言いながら二人で並んで さっさとどっかに行っちゃった。
私たちのことは もうきっと見えてないな。

お義母さん..... とっても嬉しそうだった。
失礼な表現かもしれないけど そんなお義母さんを可愛いなって思った。
それに...... やっぱり私達と一緒じゃ気疲れしてたのかもしれない。

「ノブさん おとうさんの仕事ほんとに大丈夫なの?」
「昨日のうちに一件済ましたから。明日までは大丈夫だろ 」
「もしかして......昨日 ノブさんがしてた仕事って.....」
「まぁな。.....といっても 俺が先延ばしにしてた案件 済ましただけだけど
ちゃんと成約まで取ったらしいから親父も安心して休めるだろ。さすがだよな 」

俺たちも行こうかって 荷物を持ってチェックインしてくれてるノブさん。
私が言い出した我侭のために せっかくの休みなのに仕事してくれたんだ。

「おーい 香織 部屋行くぞ。疲れた 」
「あ....はい」


部屋についてからノブさんは はぁーって座り込んだ。
窓の外を見ると 露天風呂がついててそこから海が見える。
暗くなったらきっとライトアップされるんだろうなって.....


「疲れたでしょ?いっぱい歩いたからね。何か飲む?」
「いや 香織 こっちきて 」

言われたとおり傍に行くと いきなり抱きしめられた。

「ノブさん ありがとね。私のわがまま聞いてくれて.....」
「わがままじゃないだろ。理由は美幸に何となく聞いたから。
あいつ かなり気にしてたぞ。香織に悪いことしたってさ 」
「えーっ 聞いちゃったの?やだ どうしよう 」
「何でどうしようなんだ?」
「だって.....」
「あいつが自分から言ったんだから気にしなくて良し。それに.....」

ノブさんは私にキスを落としながら耳元でつぶやいた。

「......昨夜みたいな香織も悪くない......役得?」
「ちょっと.....恥ずかしいよ 」

顔見られないように 抱きしめられたままの腕で背中をぺちぺちしてやった。
きっと今 私は消防車よりも赤い顔をしてるだろう。

「恥ずかしくないだろ。今から色んな香織を発見していくんだから。
あ そういう意味じゃないぞ。いやらしくとらないように。」
「......分かってるよ。私なんか どんどんノブさんのこと好きになってるもん。
毎日 毎日 どんどん好きになってく。かなりやばいよ。キャパオーバーしそう 」

「おっとぉ そんな可愛いこと言われると.......」
「あんっ だめだよ。誰か来たら.....」
「大丈夫だって。さすがにお袋たちも部屋まではこないだろ 」
「だめですっ。たぶんもうすぐ来るよ。客室係りさんがね 」


ノブさんの腕から抜け出して 窓辺に向かった。
ここは一部屋ずつが離れになってて 各部屋に露天風呂がついてるらしい。
私たちの部屋は 温泉だけど洋風でベッドのある 一応 スィートルームなのだ。
少しお値段が高いかなって思ったけど やっぱりここにしてよかった。
窓を開けると縁側みたいになってて そこに座って露天風呂に足をつけた。

「今日のメインは温泉だよぉ。気持ちいいっ 」
「飯食ったら 一緒に入ろうな 」
「うんっ」




夕食はお義母さんたちと一緒にって思ってたんだけど....
ノブさんが聞きに行ったら 二人でどっか散歩に出掛けるからって
結局 私たちとは別行動になってしまった。


「いいんじゃないか?二人で旅行なんて今までなかっただろうし 」
「そうだよね。それにおかあさんにとっては.....」
「初めての新婚旅行だろ?やっと行けたってところだな 」
「きっと嬉しいと思うな お義母さん 」
「香織のお陰だな。俺 実は忘れてたよ......約束してたのにな 」
「約束?」
「お袋にさ.....俺が連れて行ってやるからってな 新婚旅行 」
「それなら 教えてくれた美幸さんのお陰でしょ。感謝しなきゃね 」
「しかし あいつよく覚えてたよな。そんなこと 」
「作文はまだおかあさんが 大事にもってるみたいだけどね 」
「見せてください なんて絶対に言うなよ。恥ずかしいから 」
「やだ。見せてもらう.....って言いたいところだけど きっとそれっておかあさんの宝物だと思うからさ。
本当は見たいとこだけど.....我慢するかな 」

照れくさそうにしてるノブさんは 腹減ったなって言って誤魔化してた。
それから夕食をいただいたけど ここはお料理もとても美味しくて
普段あまり飲まないノブさんもちょっとほろ酔い気分。


「風呂は ちょっと酔い醒ましてから入ろうかな 」
「うん。私 先に入ってるから 」
「ああ すぐ行く 」


先に裸になるのはちょっと恥ずかしかったけど
早く 露天風呂に入ってみたかったから......

思ったとおり 綺麗にライトアップされたお風呂はとても幻想的で
海の傍だけあって ちょっとだけ波の音も聞こえてくる。
現実をしばし忘れてしまいそうなそんな空間.....

一人で ゆったりとつかってるとノブさんが入ってきた。

「......何 考えてた?」
「別に.....何も......考えてなかったかな 」
「嘘でも俺のこと考えてたって言って欲しかったなぁ 」
「あは もう酔いは醒めたの?」
「これでもだいぶ強くなったんだぞ。香織が消えたときに.......」
「え?......私が消えたときって.....」
「香織がいなくなった時さ 俺 どうしていいかわからなくってさ。
酒に逃げてたんだよな。酔っ払ったら何も考えずに寝られるかなって思って 」
「ノブさんらしくないね.......」
「......でもさ 飲んでも飲んでも思い出すんだよな。余計にさ 」
「ノブさん........」
「感謝しなきゃな......あいつに 」
「あいつ?」



「........なぁ 香織 俺 絶対にお前を幸せにしてやりたい。
そのためならどんな努力でもするつもりでいる。
だけど....... もしかしたら 苦労かけたりするかもしれない。
それでも もう絶対に俺の前からいなくなったりしないって約束してくれ」
「ノブさん......私 ノブさんの奥さんだよ。何があってもどんな苦労しても
例えば......弱いノブさんを見たりしても私が助けてあげる。もう絶対にどこにもいかない。約束する。信じて 」
「香織.......」
「当たり前でしょ。夫婦なんだからさ。あ でも......浮気は許さないから 」
「了解。絶対にしません。香織 怖そうだしな 」
「怖いなんてもんじゃないよ。もしそんな事になったら......」
「なったら?」
「え?......えっと なったら.....んっと......」
「はは 真剣にとるなよ。絶対にないからさ。誓う 」
「意地悪なんだから!もうっ」


もしそんなことになっても 私は絶対にノブさんの傍から離れないよって
言葉には出さなかったけど 心から そう思った.......





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