次の休日もひめを探したけど やっぱり見つからなくって
うちで元気のない那美と二人で会話もなく晩飯を食ってると
京子から電話があって店に来てくれと呼び出された。
思い当たる節があったのでとりあえず行くことにした。
覇気のない那美の顔を一日中見てるとさすがにめげてたし.....


   Lie and truth       達也の物語      6


「休みの日ぐらい家にいたいんだけどなぁ。京子さんよぉ」
「やってくれたね....吉永さん 」
「怒ってるのか?文句あるなら聞いてもいいぞ 」
「.....はぁーっ 負けたよ吉永さんにも それから旦那にもさ 」
「その様子だと あいつうまくやったみたいだな 」
「あれからすぐにやって来たんだよ。もうっ 子供寝てたのにさ 」

怒ったように話す京子は いい顔してて.....
そう.....昔のあの頃の気の強い男勝りな彼女に戻ってた。
この女にはこうでいて欲しい。いつも凛としてた彼女。
彼女の強さの反対にある弱さを包んであげられるのは
きっとああいう男なんだろうと思ったから.......

「ここ もう辞めるからさ。ご希望通り戻ることにしたから。」
「良かったじゃねぇか。あっちのおふくろ大丈夫なのか?」
「旦那がね.....ちょっと離れた場所にマンション買ってくれたらしくって
中古だしもちろんローンだけどさ。少しでも実家から遠い方がいいだろって。
だから私も.....パートかなんかして働こうと思ってる。」
「そっか......ここから遠いのか?」
「そうでもないけど.......でも吉永さんに会うことは もうないかもね。」
「まぁ 元気にやってればいいさ。」
「子供がね 旦那の声で起きちゃって私より先にあっちに抱きついてた。
吉永さんのいう通りだね。やっぱ父親が好きみたいだよ 」
「お前の事だって大好きだと思うぞ。なんせ男の子だしな 」
「あれ 吉永さんってもしかしてマザコンなの?いやだー 」

なんでそうなるんだよって思ったけどまんざら嘘でもないかもな。
おふくろは何だかんだ言っても未だに俺に小遣いをくれる。
自分で株とかやってるらしくて儲かった時だけだけど。
そんなのいらねぇよっていつも言うんだけど......
お嫁さんに苦労させてもいけないから
自分の欲しいものはこれで買いなさいって 
どうせあぶく銭だからって勝手に俺の口座に振り込んでくるから
お陰で俺はこうして飲み歩くこともできるっていう
......まぁ甘えてるのは俺だな。

「そう思うなら旦那の気持ちとか立場とかも少しは理解できるだろ 」
「うん......私も少しずつはお義母さんと仲良くできるように頑張ってみる 」
「お前ならきっとやれるよ。自身持てよ 」
「いろいろありがとう。ほんとご迷惑おかけしました 」
「別に俺は何もしてないっての 」
「翔.....息子が一番嬉しそうなんだよね。それが一番良かったよ。
今度のマンション 犬も飼えるんだって聞いて大喜びなんだよー。
そんなの急に買えないっていう話だよね。なんせローンレンジャーだしさ 」

そう言いながらも嬉しそうに話す京子に安堵した。
これで良かったんだと心からそう思った。

「......そういえばお前が結婚した時 何もしてやってなかったな 」
「いらないよそんなの。今回のことで十分感謝してるしさ 」
「翔.....だっけ?俺が犬 買ってやるよ 」
「そんなのいいって.....本当に気持ちだけで十分 」
「いいじゃねぇかよ。餞別だと思ってくれたらいいからさ。
明日暇なら 翔と一緒に見に行こうぜ。ちょうど休みだし 」

正直言うとペットショップには行くつもりだった。
那美のために ひめに似た猫を見に行ってみようと思ってたから。
どうせ金使うなら有意義なことに使ったほうがいいだろって思った。
那美に言ってもまた行かないって言うだろうと思って内緒にした。


京子の息子の翔は 母親に似てるのか人懐っこくって
顔はどっちかって言ったら父親に似てたけど
すぐに俺の事も気に入ってくれたらしく.....
一緒に手を繋いで歩いた時に思った。
俺たちにも子供がいたら きっと那美はめちゃくちゃ可愛がるんだろうなって
こんな風に三人で買い物に行ったり遊びに連れて行ったり........

那美は子供ができないことを真剣に悩んでた。
俺は自分の事ばっかり考えてて もし子供ができたら親父になって 
そしたら責任が重くなるとか 好き勝手な事もできないとか
正直そんなことばっかり考えてた。
結局は俺が子供みたいな甘えた人間だから.....



残念ながらひめと同じ色の猫は居なかった。
翔を肩車して全部の犬を見せたら一匹気に入ったのが居たらしく
それを買ってやる代わりにお父さんとお母さんの言うこと
ちゃんと聞けよって約束させた。
京子は高いのに.....っていつまでも言ってたけど
どうせおふくろが勝手に振り込んできた金だし
翔が喜んでくれるならって思って.......


帰ろうとして出口まで行きそこで足が止まってしまった。

....まさか......

那美がここにいるなんて思いもしなかった。
そこにじっと立って でも那美の視線は俺じゃなくって

京子と翔の方に向けられてた.....

呼び止めようとしたけど足が動かなくって......

「どうかしたの?吉永さん?」
「悪い.....送ってくから.....俺 帰らないと 」

言えばきっと気にするだろうと思って那美の事は黙ってた。
京子たちを家まで送り届けて急いでうちに戻った。



「那美......やっぱり猫見に行ったのか?それなら今からもう一回......」
「あの人...... 誰?」
「.....ああ あれか?あれは友達 ばったり会ってさ。」
「ばったり会ってわんちゃんのプレゼント?変なの.....」
「なんか誤解してるみたいだけど ほんとにただの友達だから 」
「達也さ 子供好きなんじゃん。私にはいらないとか言ってたくせに 」
「いらないとは言ってない。できないなら二人でも構わないって言ったんだろ 」
「もしかして.....さっきの子供って....まさか」
「おい 何言い出すかと思えば.....冗談じゃねぇぞ。まったく.....」
「私だって冗談言ってるわけじゃないんだけど....」
「いい加減にしろ.....そんな訳ねぇだろ 」
「どうだか....次から次と忙しいんだね 達也は 」
「那美 だから誤解だって言ってるのがわかんねぇのかよ 」


どうやら小さな誤解がどんどん大きくなっていってるみたいで
こういう時はきっと全部本当の事を話したほうがいいのは分かってた。
だけどそうなれば彼女との事から話さなくてはいけなくなる。
結局は何もいえなくて.....ただ全部 誤解だとしか言えなかった。
今の那美は情緒不安定で 俺が何を言っても信じてくれそうもない。

「達也.....もう私たち....駄目かもしれないね。」
「おい 那美?......まさか 別れるなんて言うなよ。」
「私だってそんな事考えたくない。考えたくないけど でも......」

何でこんなことになったんだろうか。
どうすればいいのかわからなくなってた。
だけどひとつだけ明らかなことがある。



悪いのは全部.......俺






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