「達也.....ちゃんと話できた?」

余計な気回すなって言ったのに......



Lie and truth       達也の物語  1




帰りの車に乗って那美の口からでた言葉に俺は何も答えなかった。

那美はあれからずっと気にしてる。
俺がまだ あいつのこと........

家に着いてから 那美は今日の式でかなり疲れてたようだったから
一人の体じゃないんだし 早く寝て体を休めるように言った。
俺は一人で飲みなおそうと冷蔵庫を覗いたけど 缶ビールが一本しかなくて
それを飲んでからも眠れそうもなくて 仕方なく外に買いに出た。

近所の自動販売機はすでに販売禁止の時刻になってしまってて タバコさえ買えやしない。
コンビニまで行くなら車出さなきゃいけないし.......
なんだか面倒になってしまってそのまま帰ろうとしてふと昔の事を思い出した。

ここであいつに電話したな......

うちの方を見上げながらそう思った。


『何もないと電話しちゃいけないのかな?』
『そんな事ないよ。いつでもかけてきてね。』


あいつはそう言って笑ってたよな。

家に帰りながら色々思い出してた。

こんな俺を好きだと 愛してると言った女のことを.......


部屋に戻ってキャビネットからブランデーを取り出して
冷蔵庫から氷を出そうとして 那美が寝てるのを考えて なるべくそっと音を立てないようにした。


最近 ひとりでこうして飲む事が増えたよな。
外には出ないようにしてるから。
那美はやっと出来た赤ん坊のことで頭がいっぱいで
俺もやっぱり子供が腹の中にいるとわかった時はまじで嬉しかった。
だからなるべく早く家に帰れるように努力してるつもりだ。


でもこうして一人で飲んでると 過ぎた事だとわかっていても
どうしても彼女のことを思い出してしまう。
誰にも言えない俺だけの密かな秘め事ってとこか?
これぐらいは許されるだろ.....


俺は本気で彼女を愛してた。
いつだって俺が言った言葉に嘘なんかなくって......


初めてあの子にあった時.......

店のママさんから新しく入った子だって紹介されて
そんときはこんな風になるなんて思ってなかった。

最初はちょっと緊張してたみたいだったから
俺がわざとふざけて冗談を言ってみせたら
大きな口開けて けらけらと笑ってた。

毎日笑顔で「お帰りなさい」って言って迎えてくれる彼女に会うのは
特に変化のない毎日を送ってる俺にとっての楽しみの一つで
仕事で嫌な事があった時も 昼飯を食ってあいつと話をしてると どうでもいいような気がしてきて.......
あいつの淹れたコーヒーはほんとに旨くていい香りがした。

結婚してることは別に内緒にするつもりなんてなかったんだけど
彼女と話してるうちに どんどん楽しくなっていって
つい女房がいる事言いそびれてしまって.......

恋愛って不思議なもんで 
相手が自分に好意を持っているというのは何となくわかる。
彼女が俺にそういう感情を抱き始めたことはわかってた。
だから 早く女房の事言わないといけないと思った
このままだと俺自身もまずいことになるってのがわかってたから。


彼女に女房がいると伝えると泣かれてしまった。
もっと早くに事実を伝えてれば 
彼女が俺を好きになる前に 俺が彼女を好きになる前に ちゃんと話しておいたら
あんなに辛い思いをさせることもなかったのかもしれない。
彼女との関係も無かったのかもしれないな。


.....いや......どちらにしても俺たちはきっと.......


彼女に男が居るって聞いたときには正直 嫉妬した。
そんな権利どこにもないのに 俺は嫉妬したんだ。
その男が羨ましいって思った。
彼女がそいつを想ってそいつに抱かれてると想うと..........たまらない気持ちになった。
だけどそんな男がいるのなら やっぱり俺たちは縁がないんだと思った。
それと同時に 想うだけなら自由だとも思ったんだ。


京子の店で働くことになった彼女は 昼よりもちょっと濃い目の化粧をして
俺が行ったら嬉しそうに横に座ってた。
だけどそれは俺だけじゃなくて ここにくる男全員に向けられる笑顔だった。
どうやら彼女は客商売に向いてるらしく
京子からもいい子を紹介してくれて良かったと言われ
俺としてはかなり複雑な心境だった。 

昼も夜も 誰にでも 俺と同じように接する彼女。
客商売なら当たり前の事なのに 俺にはそれが耐えられなくって
話を持ちかけたのは俺の方なのに......
俺が行ったらその間は俺の横に座っててくれるから
だから彼女がバイトの日には必ず顔を出すようにしてた。


いけない事だと 駄目だと分かってても 彼女への想いが消えることはなくって.......
彼女は俺の立場を知ってもなお俺を好きだといってくれる。

もう.....どうしようもなかった。



初めて彼女を自分の腕に抱いたときには
ずっと我慢してた想いが溢れてしまって.......
泣きながら俺に抱かれる彼女が愛しくて
自分のずるさを分かっていながらも 彼女に何度も気持ちを伝えた。

愛してる..................

きっとその時 俺の頭の中に.......那美の事は無かったと思う。


那美に不満があったわけじゃない。
むしろ あいつは俺に良く尽くしてくれるし
亭主の俺がいうのはおかしいかもしれないけど
性格も 正直見た目も 結構いい女だと思ってる。
学生の頃は誰かに持ってかれるんじゃないかと心配で仕方なかった。

一度は俺の身勝手で別れてしまったこともある。
結婚してからもちょっとした火遊びのつもりで浮気したこともある。
ばれなければ問題ないとかって軽く考えて 文句ひとつ言わない女房に甘えてしまってた。

その度に那美を傷つけて..............





彼女と付き合ううちに 次第にずるい自分に慣れてきてしまって
女房がいるのに平気で彼女に愛してると言えるようになってた。
そして女房には何食わぬ顔で嘘をつく。
考えたら本当に最低なことだと思う。
だけど彼女が俺の家庭のことには何も触れないでくれたから
彼女に愛想を尽かされるまではこのままでいいんだと思った。

そんな彼女が急に女房の事を気にし始めてしまった時は焦った。
とうとうこの関係を終わりにしなくちゃいけないんじゃないかって......

女房に会いたいって言いだしたり
会わせたら会わせたで那美にも疑われるし 彼女は落ち込むしで
両方の機嫌を取るのは本当に大変だった。
まぁ それも全部俺のせいなんだけど。


一番堪えたのは 彼女がいきなり別れようって言い出した事。
あれは まじで辛かった。
別れたくないなら離婚してくれるかと聞かれて即答できなかった。
だけど それは当たり前だろ。
急に離婚なんていう話が出て 初めて現実を見せられた気がした。
彼女だって普通の年頃の女の子なんだから
結婚できない男といつまでも付き合っていては幸せにはなれない。

那美と別れるなんていうのはその時までは考えたことはなかった。
それがこの時ばかりは初めて それもひとつの選択肢に入ってた。
だけどやっぱり 考えれば考える程それは無理な話で
何があっても那美を実家に帰すようなことだけはできないって思った。
あんなに辛い悲しい思いさせて今更別れてくれなんて
......さすがの俺でも言えるわけがない。


那美に対する想いはきっと夫婦であるからゆえの愛情。
彼女に対しては純粋にただ好きだから一緒にいたいという想い。
こんな二つの気持ちが俺の中でぐちゃぐちゃに入り混じってて

結局はどっちも選べない......

今回ばっかりはもう終わりにするしかないのかなって思ってた。


彼女は付き合う前の二人に戻ろうと言った。
だけど俺は自分に自信がなかった。
顔を見ればやっぱりお互いに気まずくなるのはわかってたし。


彼女に会えない毎日はまじで寂しくて
俺の中での彼女の存在が こんなにも大きくなってたのかと思い知らされた。
何度も何度も電話しようと思ったけど ずっと我慢してた。
家に帰っても那美の顔を見るとなぜだか憎らしくさえなってしまう。
那美は何も悪くないのに それなのに......


.........結局 会いたい一心で電話してしまった俺は
情けない男だと自分でも本当にそう思う。
そしてそんな身勝手な俺を彼女はまた受け入れてくれた。
離婚もしなくていいと言い ずっとこのままがいいと言う彼女を
俺はもう二度と離したくないと思ったんだ......

だけど今考えればそれは
思いやりの欠片もない俺の我侭でしかなかった。


長く付き合ってたから 想い出だけはたくさんある。


彼女の誕生日に二人で行った温泉旅行は
久しぶりに何もかも忘れてゆっくりと過ごした。
ノブの会社で働かせてもらってるお陰で彼女も自由に連れ出せる。
バースディプレゼントに用意した指輪は彼女にとっても似合ってて
基本的に買い物なんて大嫌いな俺が密かにショップに行って選んだもので
その時は店員にいろいろ聞かれて照れくさかったけど
彼女の嬉しそうな顔見たらそんなのたいした事じゃないって思えた。

彼女は俺の誕生日にキーホルダーをくれた。
今でも俺にとっては大切な宝物だ。


なつみちゃんの結婚式の時に 俺は彼女と..........
偽りだけど それでも真実の愛を誓った。

そして 神の前でそんな罪深い事をした俺には
この後 こっぴどい罰が待ってた.....







        menu        next





inserted by FC2 system