聞いた店の前に立ってたらまきちゃんが出てきたから
無理を承知でお金貸して欲しいって試しに頼んでみた。
もう 他に頼る人なんかいないし......
案の定 まきちゃんは駄目だって言った。
当然だよね。だって返すあてなんてないしさ....
店の前で黙って立ってた。
もう どうしたらいいのか本当にわからなくって........
しばらくそうしてたらまきちゃんが出てきた。
私に店の中に入るように言ってくれて
冷たい氷水を飲ませてくれた。
喉がカラカラだったから凄く美味しくって......
「えみ 今の男と別れるなら お金 貸してあげてもいいよ。」
まきちゃんはしんちゃんと別れるならって言った。
それは無理だって最初は思った。しんちゃんと別れられるとは思わなかったから。
そんな事言ったらきっと.......殺される。
だけどお金貸してくれるって言ってくれたから 私はまきちゃんに嘘ついた。
絶対にこれが最後にするからって
お金さえあれば別れられるからって......
まきちゃんはそれ以上は何も言わなくって 黙って財布からあるだけ貸してくれた。
金額は........50万円くらいあったと思う。
私はお礼を言ってしんちゃんのところに急いで帰った。
まきちゃんに嘘をついてしまった事は本当に悪いと思いながらも
これだけあればしんちゃんが喜ぶ また優しくしてくれるって思うほうが大きかった。
だけど........
家に帰ったらしんちゃんはまた......
裸の女の人が私を見て笑った気がした。
しんちゃん どうして......
気がついたら握ってたのはお金じゃなくって
..........台所にあった包丁だった。
二人とも
引き攣った顔に変わっていくのがおかしくて
刺してやればよかったんだろうけど そしたらすっきりしたんだと思うけど
そんな時に限って お母さんの事思い出して......
小さい時 包丁で
りんごの皮最後まで切らないで剥いてみてって私が頼んだら
お母さん頑張ってたけど指切っちゃって 私が謝ったら
舐めといたら治るからって笑ってくれた.....
何だか懐かしくなって思い出して笑いが出た。
そんなお母さんも今は 私の事
迎えにも来ないけどさ。
包丁もお金も放り出して何も持たないまま私はしんちゃんの家から出た。
もう追いかけてもきてくれないんだね.......
もう 仕事も住むとこもない。
どうやってお金返したらいいのかなぁ......
気がついたらまた まきちゃんのとこに来てた。
私の顔を見て まきちゃんは店終わるまでそこに座ってなさいって言ったから
じっと座ってた。まきちゃん 怒ると怖いし......
お店閉めてからまきちゃんは私を連れて家に帰った。
まきちゃんのマンションは凄く広くって綺麗なとこだった。
私はまきちゃんに しんちゃんの事を話した。
それでよかったんだよってまきちゃんは言って
泣いてる私の頭を撫ぜてくれた。
「しばらく ここにいなよ。」
「......でも.....まきちゃんに迷惑かけるよ。......」
「いいから。わかったね。どこにも行くんじゃないよ。」
私はまきちゃんの家に居候させてもらうことになった。
まきちゃんは実は料理がとても上手で
昼前には起きて御飯を作ってくれた。
お味噌汁もとても美味しいし
卵焼きは......お母さんと同じで甘くて....
しばらく家から出なかったから 洗濯物たたんだり お米研いだり
私が出来そうなことは手伝いたかったから.....
「まきちゃん 私もお店で働いてもいい?借りたお金
働いて返すから。」
「そう?.........じゃ そうしてもらおうかな。でもね うちは厳しいよ。」
「まきちゃんのお店なんだから 大体想像はつくよ。」
そう言ったらどういう意味だよって怒ってたけど顔は笑ってた。
まきちゃんは家に電話だけはしておきなさいって言った。
どんな親でも娘の事 心配しない親なんかいないんだからって
うちの親は心配なんかしないよって思ったけど
まきちゃんが怒るからうちに電話した。
平日の昼間だから お母さんしかいないだろうと思って。
「.....もしもし お母さん?」
「えみ?あんたどこにいるの!今 何してるの?」
「お父さんに会った時........言ったんだけど聞いてない?」
「あの人に会ったの?........そうだったの.....ごめんね えみ.......」
謝ってるお母さんの声で私が家に帰ったら困るんだなって思った。
電話の向こうでお母さんが泣いてる声しかしなくなったから
元気で働いてるからって また電話するって言ってこっちから切った。
なんだかすごく悲しくなってまきちゃんの前でいっぱい泣いてしまった。
まきちゃんは何にも言わなかったけど.....やっぱり頭を撫ぜてくれた。
それからは時々お母さんに電話するようにした。
その度にお母さんは私に謝ってたから......
私はいつも笑って大丈夫だよって言った。
まきちゃんが新しい携帯を買ってくれたからお母さんに番号教えたら
お母さんからもちょくちょくかかってくるようになった。
まきちゃんのお店は言われてた通りほんとに厳しかった。
お客さんがちょっと偉い人が多くて 新聞を読みなさいって言われた。
なんで新聞?って思ったけど お店に出たらその意味が分かった。
スポンサーさん つまりまきちゃんの彼氏はどこかの会社の社長さんだから
お店に来る人は難しい話をいっぱいしてる。
でも 新聞読んでても 私にはわからないことばっかりで
そしたら まきちゃんが言った。
「大丈夫 えみには武器があるじゃん。」
武器って.......何?って聞いたら
..........えみの笑顔........
まきちゃんはそう言って笑った。若さとその天然には勝てないよって。
何言われても笑ってなさい。笑ってればきっといいことあるから
えみが笑ってるだけでお客さんは癒されてるんだよって.......
「えみ」っていうのは実は本名だ。
お母さんがいつでも笑っていられるようにってつけてくれたって聞いたことがある。
私はお母さんに感謝した。いい名前つけてくれてありがとう.......
その頃かな。京子さんがこの世界に戻ってきたって聞いたのは......
まきちゃんに聞いてみたけど 別にどうでもいいことだからって。
だから私も何も聞かなかったけど......
たまにしか来ないゆかちゃんが頻繁に来るようになった。
いつも悲しそうな顔をして.......
えみが笑ったら元気になるかなぁって思ったけど
まきちゃんが今は何も言わないほうがいいっていうから......
しばらくしてお母さんが離婚するつもりだからって言った。
お父さんとはもうやっていけないからって。
そしたら一緒に暮らそうねって。
妹は?って聞いたら
もちろん一緒だよって。
妹の事は大好きだ。小さいときからいつもお姉ちゃん お姉ちゃんってついてきてた。
もしそれがほんとの話なら私はとても嬉しかった。
まきちゃんに話したら
「これで やっとここに男連れ込めるわ。」
そう言ってたけど本当はとても喜んでくれてるのは分かってる。
まきちゃんは また私にお金を貸してくれて
これで三人で住めそうな所探しなさいって言った。
お母さんに心配かけた罪滅ぼししなさいって。
私はお母さんにまきちゃんの事を話して一緒にアパートを探した。
今はお母さんと妹と一緒に三人で暮らしてる。
離婚調停っていうのがあるみたいだけどお母さんは心配しなくていいって。
全部 まきちゃんのお陰だと思ってる。
あの時 まきちゃんが助けてくれなかったら......
もしかしたら私はもう生きてないかもしれない。
いつかまきちゃんみたいなママになりたいって言ったら
あんたはさっさといい男見付けて結婚しなさいって言われちゃった。
でも今日ゆかちゃんがお嫁さんになってるの見て思った。
あんなきれいなウエディングドレス 私には着る資格もないんじゃないかなって。
だって.......私は.......
「えみ.......ほら あの人えみの事ばっかり見てるよ。」
「かっこいい人だよね。でもさ 私には無理だよ。」
「何 言ってんの.......もしかして今までの事 気にしてるとか?」
図星だよ。さすがだね まきちゃん。
あんな仕事してたんだもん。
もしかしたら この中に私を知ってる人が居るかもしれない。
そう思うだけで 自分がここにいてもいいのかなって思えてくる。
「ばっかみたい。」
「なんでだよぉ。」
「あんたさ 昔の事はどうやっても消えないよ。じゃあ今からやり直せばいいんじゃん。」
「そうだけどさ.......えみ あんな仕事してたし。」
「心配しなくても大丈夫。あんたそんなに有名人じゃないから。」
そりゃそうだけど......
「この結婚式はえみのお陰であるようなもんだし.......手ぶらで帰るってのもねぇ。」
「だけどさ........私なんかじゃ......」
「あんたには 武器があるって言ったでしょ。」
「笑ってればいいってもんでもないんじゃないかな。」
「あんたはそれでいいの。ほら!天然ってところ存分に発揮してきなよ。」
そう言って背中を押してくれたまきちゃん。天然ってとこだけ余計だよ.....
......でもそうだよね。過去はもう戻せないんだもんね。
今からのえみを見てもらえばいいんだ。
よし!じゃ まずはあの人のとこ行ってみようかな。
駄目なら次の人また見付けて......
いつか絶対に運命の人 見付けてやるんだ。
まきちゃんが言ってくれたから
えみの笑顔は最高だよって!
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