epirogue




ノブさんと結婚してから五年が経った。

彼は変わらず私を愛してくれてる。
もちろん私も 前よりもずっと彼のことを愛してる。



そして.....私たちの宝物
愛息の「拓斗」と愛娘の「萌香」の事も 彼は本当に可愛がってくれてる。
拓斗はお兄ちゃんだからいつも萌香の世話を焼いてる。
萌香の方は ほんとに甘えんぼさんでいつもお兄ちゃんにくっついてる。


結婚後 すぐ妊娠してしまった私。新婚生活と呼べる期間はとても短くて
更に この二人の天使は同時に産まれて来たので.......
私がまさか双子を産むことになるとは思ってなかった。
のぶさんはもちろんだけど お義母さんまで手伝ってくれて
ばたばたとした初めての子育ても最近やっと慣れてきたところだ。
そんな二人の子供たちもやっと幼稚園にまで通える歳になった。


時々 恵理子さんと会って一緒に買い物に行ったりして
少し自分の時間も持てるようになってた。

まきちゃんは相変わらず結婚もせずに自由な生活をしてるらしい。
えみちゃんは私たちの結婚式で知り合った彼と結局は上手くいかなくって
今もまきちゃんのお店で運命の人探すんだって頑張ってるみたい.....。

那美さんはとっても元気な女の子を産んだ。
お母さんになった那美さんは前とは別人のように社交的になってて
近所のお母さんたちと一緒にサークル活動とかもしてるって言ってた。
私たちの家からはちょっと遠いこともあってあまり会うことはなかったけど
時々電話したりして近況報告の交換をしてる。
吉永さんとは結婚式の日から一度も会ってない。
別に会わないようにしてる訳じゃないけど なぜか会うことはなかった。
那美さんも何も言わないから きっと元気にしてるんだろうけど......



毎日が平凡で ただ時間だけが過ぎていく。
主婦なんだから当たり前なんだろうけど.....
この五年は本当にあっという間だった。

でもちょっと最近 ノブさんの様子がおかしい気がする。
どこがどうと言う訳ではないけど ただなんとなくって感じかな。
何か私に隠してるような気がしてならない。
どうかしたの?って聞いたけど何もないよって言われちゃった。
これでもノブさんの奥さんとして彼のことは誰よりもわかってるつもりだったのに。
あ.....でも お義母さんには負けてるかしれないけどさ......






「浮気なんてするわけないじゃん 香織ちゃんの旦那が。有り得ないし。」
「そんなのわかんないよ。だってさ......その....」
「はぁっ......あのねぇ 絶対ない。断言してもいい。」
「でも.....なんかおかしいもん。」
「ノブさん見てたらわかるでしょ。香織ちゃんにべた惚れじゃない。」
「......そうかなぁ....」

惚気なら聞いてやらないって恵理子さんに言われちゃった。
確かに 近所の人とか両方の親たちも 私たち二人を見るたびに
恥ずかしいぐらいに仲がいいって言うけどさ......

とりあえず 様子をみてもう一回聞いてみよう。
何かあればきっと二人で解決できるはずだから。
でも......もし他に好きな人ができてたとしたら
........私はどうしたらいいんだろう。





「香織 今度の日曜 空けとけよ。」
「え?どっか連れて行ってくれるの?」
「それはまだ言えないなぁ。とにかく空けといてな。」

いつものように子供を寝かし付けた後 愛し合ったベッドの中でそう言われて
きっと何処かに遊びにいくんだろうとばかり思ってたら.....






「......うそ....でしょ 」

「パパ これなあに?」
「こら 萌香 だめだぞ。触ったら割れるから。」
「ママ パパが怒ったよぉ〜」
「怒ってないだろ。それはな ダッチコーヒーの機械だぞ。」
「だっちー?だっこー?」
「わかるわけないか.......拓斗 こっちで萌香と遊んでてくれ。」
「もか こっちきてみな。ふかふかだよ。」
「たっくん?これなあに?」
「もか さわったら 叱られるって。」


二人は椅子に座ってころころして遊んでる。


「どうだ?気に入ったか?」
「ノブさん.......私....」

連れて行かれたのは 小さいけれどとっても素敵な.......

.......カフェテラス........

「家はまだ立ってないけど先にこれ見せたくってさ。この横に家建てる予定。」
「私の......ために?」
「約束しただろ。いつか俺が設計するって。家は二人で考えような。」
「ノブさん......ありがとう。私 嬉しい。」
「ちなみに俺の職場は自宅にするけどな。マンションもったいないし。
自宅兼会社って感じだけどいいよな。香織のコーヒー いつでも飲めるしさ。」


会社は確かに順調みたいだったけど そんなにお金があるはずはない。
うちはノブさんがお金の管理をしてるから私は毎月必要な分しか貰わない。
だからお金の心配なんてしたこともなかった。
まさか借金したんじゃないだろうか.....


「ノブさん お金は?どうしたの?」
「家買うために結構仕事頑張ったからな。少しは蓄えもあったし。
........正直ローンも何年かあるけどすぐ返せるだろ。また俺 頑張るし。」
「本当に?......いいの?私......」
「香織の夢なんだから俺が叶えてやってもいいだろ。
拓斗も萌香も もうだいぶ大きくなったしさ。それに家の傍なら
これから学校へ上がってもここに帰ってくればいい訳だしさ。」
「ノブさん......」
「どうした?気に入らなかったか?」

心配そうに私を覗き込むノブさんの胸に飛び込んだ。

「あー ママ泣かした。パパだぁめでしょ!」
「萌香 違うよ。ママは嬉しくって泣いてるんだから。」
「嬉しいの?ママ?」

拓斗と萌香が不安そうな顔で私を見てる。
いいかげんに泣き虫......治さないとね。

「そうだよぉ。ママ嬉しくって泣いちゃった。はは」

二人に再び明るい笑顔が戻った。
私が泣くと子供が心配するんだということを学んだ。
この子達は私にいろんなことを教えてくれる。


「ノブさん ごめんね。私ちょっと疑った。」
「何を?」
「.......浮気してるんじゃないかって。」
「勘弁してくれよ。それはないだろぉ。」
「だって......何も言ってくれないから.....」
「もし そうだったらどうする気だったんですか?ママは」
「.......絶対に別れないもんって思った。」
「そっか。よかった。万が一の時も安心だな。」
「いやだ。絶対にしないで......」
「冗談だって....本気にするなよ。」

ノブさんは私の耳元でこっそり ずっと香織だけ愛してるって言ってくれた......

拓斗と萌香には聞こえないようにそっと小さな声で......

彼はいつでも私を幸せにしてしまうからほんとに凄い。






そして今........

私はこの喫茶店のママになって 毎日 大好きな珈琲の香りの中で
可愛い子供たちと.......愛する主人と暮らしてる。





.......ちりん......

「いらっしゃいませ。」







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