それから一ヶ月が過ぎていった。
今日はいつものように 夜のバイトの日。
実は段々と この仕事が面白くなっていた気がする。
お店に来るお客さんも様々な関係の人があり
接待でお偉いさんを連れてきて やたら楽しませようと一生懸命な人とか
ナルシスト風な人でカラオケとか歌いながら自分に酔っている人
仕事の愚痴を私達に聞いてもらいにくる人......
たくさんの色々な人に出会って色々な話を聞くのは 本当に楽しくって
これでお金までもらえて申し訳ない。

そんな風に思えるくらい この世界にのめり込んでた。




       カフェテラス  4





昼の仕事は日曜日が休みなので土曜の夜はラストまで勤めた。
ママもそうして欲しいというので...........
やはり週末はそれなりに忙しいみたいで。

ラスト位になると近くの同業者のパブのお兄さんたちが飲みに来たりする。
こういうことは結構この世界では多いらしく
こっちが早く終わったときなんかは 他のお店とかにママたちも飲みに行ったりするらしい。
同業者間の行き来は情報交換も兼ねてよくあることなんだって。
彼等は女性のお客さん相手の 所謂ホストみたいな方たちで ルックスが抜群にいい。
..........人並みくらいの人もいるけど。
でもみんなやっぱり話術が得意だ。
特に人並みクラスの人は話が底抜けに面白い。
私がお客さんなら勘違いして貢いでしまうかもしれないな。
そんな事を考えていたら店が引けてからみんなで食事に行こうという話しになり
次の日休みだしいいかなどと安易な考えで
誘われるままに一緒にお寿司を食べに行った。
ママはオーナーのお迎えで帰るらしい。
なつみさんは平日休みなので早く帰ってしまったし 結局私とえみちゃんとまきちゃんで行くことになった。



食事が終わってさあ帰ろうという時になって
普通の観念しかない私は お勘定の時ワリカンにするのだろうと思い
お財布を開いたんだけど 気がつくとお兄さんたちが支払いを済ませていた。

「ゆかちゃん こういう時は出さなくていいよ。誘ったのこっちだし もちろん奢りだよ。」
「あ....ご馳走様でした。.....でも いいの?」
「いいよ。今度は焼肉でも食べに行こうね。」

本当にいいのかなぁ。

私が考えている横をえみちゃんとまきちゃんが目で いいんだよ と合図しながら歩いていった。
そしていつも通りタクシーで帰った。
こんなおいしい仕事あっていいのかな.....
そんなこと 考えてみたりもしたけど
帰ってからすぐ睡魔に襲われそのまま寝てしまった。



 

 

 

その日は平日でお客さんもまばらだったので
日付が変わるころにママから
たまには早くあがっていいよと言われていた。
でも吉永さんが来てたしついていたお客さんもいたから なかなか帰らずにいた。
いつも私が他のお客さんの相手をしている時は
カウンターで他の子とかママと楽しそうにしている吉永さん。
私もできれば吉永さんの相手ばかりしていたいところだけど
さすがに仕事だからそれは許されない。
いつもの様に馬鹿話とかしてそのお客さんと盛り上がっていた。

なかなか帰ってくれないなぁと思いながらも
ボトルを入れてくれたお客さんだし別に嫌じゃないしっていうか
むしろ楽しいし?もしかして天職かもしれないなんて......
自分でそんなおかしな事考えていた。




暫くしてそのお客さんが帰りママが言った。

「ありがとう。おつかれさま。結局遅くなったね。」
「いえ いいですよ。楽しかったし」

私はにっこり笑って答えた。

「もうあがってね。あ 吉永さん一緒に帰ったら?ね そうしなよ。ゆかちゃん」
「でも吉永さん酔ってるんじゃない?車大丈夫?」
「そんなに飲んでないから平気。送っていくよ。」


 


そして彼の車で家まで送ってもらうことにした。
こうして二人きりになるのはいつ振りだろうか。
「明日も仕事だろ?起きれるか?」
「大丈夫 若いから。ふふ。」
「ならいいけど.....」

暫く無言で何だか吉永さんの機嫌が悪いような気がした。

「なんか すいません。吉永さん反対方向だよね。」
「いいよ。気にしなくても。」

.............何か話しかけなきゃ間がもたないよ。

「ねえ ちょっと確認。吉永さんとママ関係あり?」




何で今それ聞いちゃったかなぁ。愚かな私  後悔先に立たず......

「.........振られた。前に軽くちょっかいかけたけど」
「そ........そっかぁ。」

再び訪れた沈黙......

「ちょっと電話していいか?」
「あ...うん...どうぞ 」

吉永さんは車を路肩に止めて携帯だけを握って 外に出た。
夏の夜風の方がエアコンの冷気よりも気持ちいい。
そう思って窓を開けたら話し声が微かに聞こえた。
なんだか盗み聞きみたいで嫌だったのですぐさま窓を閉めた。

きっと奥さんだね。

なんとなく勘でそう思った というよりこんな深夜に電話するとこなんて そうそうないしね。



「お待たせ。ごめん」
「いいよ。こちらこそ遅くなってるよね。家大丈夫?」

遠まわしに電話の相手を確かめようとする 本当に嫌な私。

「....先寝るように言ったから....」

やっぱり奥さんだったんだ......




「香織ちゃんさ やっぱり夜 やめてくれない?勝手だけどさ」

突然 彼の口から出た言葉にかなりびっくりした。

「え?なんで?私なんかした?ママになんか言われたの?」

どうしていきなりそんなことになるのかさっぱり訳がわからず 吉永さんに問い詰めた。

「俺が嫌だから.........香織ちゃんが他の男と話すの。」
「え.....ど....して....?」
「他の男の肩に触るのとか他の男の横に座るのも...それから........」
「........それから?........」
「他の男に笑いかけるのも嫌だから......。」
「.....吉永さん?何言ってるの?」
「勝手だけど やっぱりバイトやめて欲しい。」


どうしよう

止められなくなる

せっかくここまで我慢したのに......

こんなに簡単に崩れてしまう程 脆かったのかな。

私の決心.....


心が悲鳴をあげた


私はやっぱりこの人が

 

吉永さんが.....すき..........




 








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